仕事のあれこれ、京のあれこれColumn

2022.06.01

半年の罪穢れを祓ってビジネスチャンスを呼び込もう
夏越の祓 ─なごしのはらえ─

半年間の所業にグッバイ

京都は、犬も歩けば神さん仏さんに当たるといっても過言ではないほど、信心でできている街だと思います。辻々に鎮座するお地蔵さんをはじめ、多くの人が崇敬を寄せるあまたの社寺、またそれにまつわる祭事や、信仰行事が日々どこかで行われているのです。今回紹介する夏越の祓(はらえ)もその一つ。

夏越の祓は、1年の半分にあたる6月30日に、この半年間で知らず知らず身に付いてしまった罪穢れを祓い、残り半年も無病息災で頑張ろう!という行事。宮中で行われていた大祓(おおはらえ)に基づく風習で、市内の神社を中心に広く行われています。

しかし、この夏越の祓、つくづくありがたい行事と思います。なぜってこの半年間の悪行所業(?)をリセットできるチャンスをくださっているんですよ。都合がいいというかなんというか、とにかく素晴らしい風習です。

仕事をしているといろんなことあります。売り上げの浮き沈み、社内の人付き合い、得意先との信頼関係づくりなど、常にモヤモヤ、イライラを心に秘めて笑顔をつくる。そんな溜まりに溜まった心の垢は夏越の祓で洗い流しましょう。祓ったあとはケセラセラ。気持ちを新たに仕事に取り組めば、ビジネスチャンスも迷い込んでくるというもんです。モチベーションの安定に、ぜひ取り入れて欲しい夏越の祓。おすすめを紹介していきます。

回ってバターになりそう…茅の輪くぐり

夏越の祓といえば、この茅の輪くぐりを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。6月20日ごろから、茅葺屋根などに使われる茅(ちがや)という草で編んだ大きな輪が各神社の境内に据えられ、参拝者はそれをくぐりながら厄災を祓い清めます。

くぐる時に欠かせないのがこの歌――。
水無月の
なごしの祓する人は
ちとせの命
のぶというなり
(訳:6月の夏越しの大祓をした人は、寿命が千年ものびると言われている)

これを独りごちながら茅の輪を八の字に3回くぐるのが作法なんですが、私の場合、2周目あたりで必ず目が回ります(年のせいですね)。そうなるともう、だんだん茅の輪が冥界の入り口に見えてきて、これまでの悪行がそこに吸い込まれていくような気さえします。次第に歌も呪文に思えてきて、シュールなおかしさが込み上げてくるんです。終わる頃には、それまで心に引っかかっていた何かがとれるというか、「ま、いっか」と思える不思議な儀式です。

ほとんどの茅の輪が24時間オープンですから、早朝でも夜分でも期間中であればお好きなタイミングでどうぞ。

すべてを水に流して無病息災

2つ目は世界遺産・下鴨神社で土用の丑の日前後に行われる御手洗祭(みたらしさい)。別名「足つけ神事」とも言われ、下鴨神社の本殿のやや東にある末社・井上社の祭礼で、同社のお膝元にある御手洗池が祭りの舞台です。

この池、普段は枯れているんですが御手洗祭の期間中は地下より清水を汲み上げて池にします。そこへ参拝者が裸足で入り、お社の前にロウソクを供え、無病息災を祈願。池から上がったあとは葵紋が描かれた器でご神水をいただくのが習わしです。

百人一首にこんな古歌があります。

風そよぐ
ならの小川の夕暮れは
みそぎぞ夏の
しるしなりける
    ーー藤原家隆

「ならの小川」は御手洗川のこと。「みそぎ」は「夏越の祓」を意味します。藤原家隆は鎌倉初期のお公家さんですから、さすがに足は浸けていないと思いますが、古の時代より都人たちは禊(みそぎ)をしていたんですね。

ちなみに令和の御手洗池は結構深くて冷たいので要注意です。ロウソク片手にスカートや浴衣の裾を持って清水を進みますから、くれぐれもスマホなどを落とさぬようお気をつけくださいね。

氷に見立てた菓子で暑気払い

最後は「水無月」というお菓子。京都人は1年の折り返しである6月に水無月を食べて暑気払いをし、厄除けをする風習があります。

水無月は三角形の白ういろうの上に小豆を散らしたもので、三角なのは氷に見立てている、あるいは四角形のういろうを半分に切ることで“半年”を表しているといった説があります。上にのせる小豆は「魔滅(まめ)」、すなわち魔を滅して邪気を払う縁起にあやかります。

個人的にいろんな水無月を食べましたが、なんだかんだ一番好きなのは出町ふたばさん。スタンダードな白ういろうだけでなく、黒糖、抹茶味の水無月もあって、さらには白いお豆(手芒豆)バージョンもあって、毎年どれにしようか悩みます。お値段も手頃なので、ちょっとしたお持たせにもおすすめです。

■Information

下鴨神社 井上社(https://www.shimogamo-jinja.or.jp/oharai/

出町ふたば 

 

Columnist

五島 望 Nozomi Goto / ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。

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五島 望 Nozomi Goto
ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。