仕事のあれこれ、京のあれこれColumn

2022.01.28

鬼を除けつつ鬼と出会う
吉田神社の節分祭

鬼の通り道・鬼門

突然ですが、皆さんは日々の暮らしの中で“鬼門”を意識したことはありますか?

鬼門とは、陰陽道で鬼が出入りするといわれる方角(北東)のこと。または、ろくなことがなくて行くのが嫌な場所、苦手とする相手のこと。

ほとんどの方が前者の意味で使うことはあっても、後者の、方角としての鬼門を意識する人は少ないのではないでしょうか。

ところが、京都にはそこかしこにあるんです。

私が初めて鬼門に遭遇したのも京都でした。物件探しで訪れた空き家で不動産屋さんが「ここは鬼門なのでお地蔵さんがいます」と丁寧に説明してくれたときは、何やらとんでもないものを見たような気がして、背筋がヒヤリとしたことを今でもよく覚えています。

さりげなく鬼門除け

京都にはたくさんの鬼門があり、その分、鬼門除けが存在します。

たとえば南天は「難を転じる」という意味から、よく家の鬼門に植えられます。京都御所を囲む白壁が北東だけ角ではなく凹んでいるのは「角(つの)をとる」という意味の鬼門除けで、その軒下に魔除けの猿が鎮座していることから「猿が辻」とも呼ばれています。

そして1番スケールが大きいのが京の街。

およそ1300年前、風水のような占いをベースに平安遷都が決まったというのは有名な話ですが、さらなる災いから都を守るために平安京の北東、つまり鬼門の位置に比叡山延暦寺、吉田神社、赤山禅院を建立し、二重、三重に京の鬼門を封じたのです。

これを知った時は、どんだけ魑魅魍魎はびこってんだよ!と突っ込みたくなりましたが、家や京の街の姿まで鬼門が深く関わっていたことを知るほどに、先人たちの畏怖の念、あの手この手で災厄を封じようとしてきた必死さを感じました。

と同時に、今も京の人々は常に目に見えない何かを身近に感じながら暮らしているのだとも思いました。それは頭で考えるというよりは細胞レベルで組み込まれた小さな信仰のようなもの。屋根に鍾馗さんを置く、玄関先に祇園祭のちまきを飾る、お地蔵さんに手を合わせる…などなど。日常の営みに様々な信仰が共存しているです。
(もし、これから京都で起業される方は、事務所やお店の鬼門対策をするとより良いスタートアップになるかもしれませんね。)

迫真の演技に邪気も消える!? 節分発祥・吉田神社の節分祭

さて、前置きが長くなりましたが、令和の時代も鬼門から京の街を守ってくれている吉田神社で節分に行われるのが節分祭です。同祭は節分の起源とも言われる祭りで、2月2日夜に行われる「追儺式(ついなしき)」は方相氏(ほうそうし)と呼ばれる4つ目の鬼神が登場し、鬼を退治する古式ゆかしい儀式。

2022年は残念ながら儀式は中止なのですが、もし今後皆さんが「追儺式(ついなしき)」をご覧になることがあれば、ぜひ、赤鬼、青鬼、黄鬼の演技に注目してください。方相氏によって怒りを意味する赤鬼、悲しみの青鬼、苦しみの黄鬼が次々と退治されていくのですが、その3鬼3様の演技が素晴らしいのです。赤鬼は更に顔を赤くさせるがごとく激昂し、青鬼はがっくり肩を落としながらシクシク泣いているかと思えば、突然大声で号泣したり。黄鬼は時折、首元を手で抑えながら苦しみ悶え、参拝客にすがるような素振りをしてきた時は、さすがに見ているこちらも苦しくなるほどの迫真の演技です。

凍えるような寒さの中でひたすら鬼たちの断末魔を見守るのですが、そうして見ているうちに、いつしか自分の中の怒りや悲しみ、苦しみをその鬼たちが引き受けてくれているような気になり、儀式が終わる頃には不思議と清々しい気分になります。あくまで個人の印象ですが、とにかく鬼たちの、思わず息を飲む演技に注目です。

■Information

吉田神社 節分祭 2月2日〜4日
※新型コロナウイルス感染症対策のため、ここで記載した内容、全てが実施されるとは限りません。詳細は吉田神社のWebサイトなどでご確認ください。 ▶︎吉田神社Webサイト http://www.yoshidajinja.com/index.html

Columnist

五島 望 Nozomi Goto / ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。

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五島 望 Nozomi Goto
ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。