仕事のあれこれ、京のあれこれColumn

2022.03.31

お菓子屋にも格がある!?ビジネスシーンごとに使い分けたい京の和菓子

花より団子 あんこが恋しくなる季節

みわたせば 柳桜をこきまぜて 都ぞ春の 錦なりける

かすんで見える鴨川に柳の若草色と桜の薄紅色が満ちていくさまを見ると、いつもこの和歌が思い浮かびます。待ちに待った春の到来ですね。

ゴザを持って花見遊山もいいのですが、私はこの時期いつも甘いものが恋しくなります。それも和菓子が食べたくなる。春は山菜などの苦味の季節とも言いますから、その反動でしょうか。出先で和菓子を買ってきては抹茶を点てていただく日々です。

京都人にはお菓子好きが多いように思います。それを裏付けるかのようにたくさんの和菓子店もある。ところがこの和菓子店、一見同じように見えて、実は微妙にラインナップが異なることをご存知でしょうか。しかも古くから、「お餅屋さん」、「おまん屋さん」、「上菓子屋さん」と大きくカテゴライズされていて、それぞれ違う役割を果たしてきました(いちいち「さん」がついているのもまた、かわいい)。
厳密には豆菓子やぼうろなどの焼き菓子を売るところもありますが、今回はこの3種の菓舗について書かせていただこうと思います。

普段使いのお菓子はお餅屋さん、おまん屋さんへ

まず、お餅屋さん。ここはその名の通りお餅をメインとしていて、大福や柏餅のほかに赤飯やおこわ、年末年始には鏡餅や丸餅などが大いに売られます。出町柳に豆餅で有名な「出町ふたば」がありますが、ここはお餅屋さん。“赤飯の鳴海”の看板が印象的な「鳴海餅本店」も、北野天満宮門前にある秀吉ゆかりの「長五郎餅本舗」もお餅屋さんと言えるでしょう。菓子の仕上がりはもちろん、餅にも心血を注いでおられます。

2つ目のおまん屋さんは、仏壇へのお供えや、急な来客のために買いに走るような、近所の小さな和菓子屋さんのこと(「おまん」とは京言葉でおまんじゅうのこと)。
実は私、このおまん屋さんと、お餅屋さんの区別が未だつきません(汗)。なぜなら双方同じような菓子を売っているから。店の奥でお餅を搗いているかそうでないかで、すみ分けができるのでしょうが、さすがに表からは察しがつきません。なんとも曖昧な説明で申し訳ないのですが、いずれにせよ、お餅屋さんもおまん屋さんも“普段使いの菓子”を扱っているということははっきりと言えます。家族で食べるおやつや、親しい人へのお持たせに使えるカジュアルな和菓子です。

京都のトップオブ和菓子 上菓子屋さん

一方、そうした日常の菓子とはうってかわって、お茶席で出されるような上等な和菓子をつくるのが上菓子屋さん。上菓子司とも言って、京都の有名どころだと「末富」、「鶴屋吉信」、「老松」といったところでしょうか(個人的には「千本玉寿軒」や「塩芳軒」のような小さな上菓子屋さんも好きです)。いずれも各式の高い、京菓子界を牽引する老舗が多いです。

上菓子は、白餡やういろうなどを使って、季節の花や七夕などの節句、名月や紅葉といった自然の営みを表現するのが特徴で、特に京都ではモチーフを抽象化するのが流儀。

デフォルメされた大変シンプルな意匠なので何を題材にしているかわかりにくいのですが、菓名とともに込められたストーリーを読み解くのが楽しいのです。そこにその菓舗のセンスや美意識を見る、という京都人もいるほど奥深い世界が広がります(これについては次回詳しく書きます)。とにかく上菓子屋さんの菓子は京都が誇る美しい芸術でもあるのです。

シーンごとにふさわしい菓子を

以上、3種のお菓子屋さんを紹介したところで、最後に京都で起業、創業される方へちょこっとお菓子アドバイス。

個人でも法人でも、仕事をする上で何かと入り用になるのがお菓子。お得意さんへの挨拶まわりもあれば、お礼やお詫びのシーンもあるでしょう。そんな時に京都のどんな菓子を持っていけばいいのか、悩まれる方は多いのではないでしょうか。特に京都には“ぶぶづけ“伝説もあるくらいですから気をつかいますよね。そんな時は今回紹介した、お餅屋さん、おまん屋さん、上菓子屋さんを思い出してください。

たとえば、もちつもたれつ、気楽に話ができる会社へのご挨拶には、お餅屋さん、おまん屋さん。逆に目上の方や、老舗、お得意さん、社寺などへは上菓子屋さんの菓子を使うのです。「たかがお菓子。なんだっていいじゃん」と言う人もいるとは思いますが、考えてもみてください。この3種の呼び名、つまり格付けのようなものが今に伝わるのは、これまで京都人が相手によって菓子を使い分けてきた証。それは裏を返せば、そうしたことを京都人は気にするということ。
これを書いているだけで冷や汗が出そうですが、それもまた京都の愛すべき、こわかわいいところですね。あー、おそろし。

あくまでも目安なので、お相手の好みや社員の数、賞味期限などを考慮して、3種のお菓子屋さんをうまく使い分けてくださいね。特に上菓子屋さんだから絶対安心!ということでもなくて、相手に伝えたい内容と見合わない、高級すぎるお菓子はかえって嫌味と捉えられることもあるので要注意です。

次回も引き続き、京の和菓子について書きたいと思います。

Columnist

五島 望 Nozomi Goto / ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。

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五島 望 Nozomi Goto
ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。