仕事のあれこれ、京のあれこれColumn

2022.08.01

地蔵のルーツを知れば京都が見えてくる
京都にお地蔵さんが多い理由

お地蔵さんの数は日本一!?

京の街はとかくお地蔵さんが多い。街を歩けば必ず2つ、3つ遭遇するほど。

いずれも野ざらしではなく、きちんと祠に納められ花が手向けられている。通勤がてら合掌する人、きれいに掃き清める人を見るにつけ、地蔵信仰は京都人の暮らしの一部のようにも思える。鎮座ましますお地蔵さんもどこか誇らしげだ。

京都市内にはこうした町のお地蔵さんが確認されているだけでも3000以上はあるという。社寺などに祀られる地蔵を除いた数だから日本随一ではないだろうか。では、なぜそんなにも多くのお地蔵さんが京の町には存在するのか。

地中から現れた大量の石仏

地蔵菩薩が日本に渡来したのは奈良時代のこと。地蔵はサンスクリット語(古代語)で「クシティガルバ」と言い、クシティは大地、ガルバは子宮や胎内を表すことから“大地に包蔵される”という意味で「地蔵」と訳された。

生きとし生けるもの、特に弱者を救うのが役目で、古来、子供が無事に育つように、あるいは幼くして亡くなった子が賽の河原で鬼にいじめられず、浄土へ行けますようにとの願いが込められた。

一方で地蔵は閻魔大王と同一であるとする説もあったため、地獄に堕ちた人を救済する存在として平安末期から民間で崇敬を集めた。やがて中世になると足利尊氏などの武士からも篤く信仰され、江戸初期には京都で空前の地蔵ブームが巻き起こる。

江戸初期といえば大坂夏の陣を経て徳川幕府が本格的に始動した頃。新時代の幕開けといえば聞こえはいいが、豊臣家のお膝元であった西国の動揺は大きかったのではないだろうか。それを裏付けるかのように、この頃の京では大坂の陣で落命した者の亡霊騒ぎがあったり、誘拐された子供が大坂へ売られる事件が起こっている。新しい世の始まりは社会不安という揺らぎを生み出していたのだ。

そんな京で、ある珍事が起こった。
二条城や人家の普請、井戸堀りなどで地中から石仏が掘り出されたのである。それも1つや2つではなく、同時多発的に。

地中から顔を出した石仏は、まさにクシティガルバ(地蔵)。子供たちや暮らしを守りたい、そんな民衆の願いと強く結びつき、たちまち熱狂的な信仰対象となる。

ちなみに、この時出土した石仏は中世の墓標だと言われている。京都は鴨川の氾濫と治水が繰り返されたことによって土砂が堆積した地(平安期の地面は今よりも2mほども低かったと言われている)。特に鴨川は葬送地であったため、石仏出土というのはうなずける現象なのである。

いずれにせよ、それが墓標だろうが地蔵の形をしていなかろうが、もはやどうでもいいこと。突如現れた数多の地蔵に人々は手を合わせ、心の拠り所を見出したのだ。

お地蔵さんが人と人との橋渡しをする地蔵盆

こうして京都人の心をがっちり掴んで、地域の守り神となったお地蔵さん。大量出土というパンチのきいた降臨から400年以上経った今も、おおむね1つの町に1柱の地蔵があり、持ち回りで町人が祠を掃除したり、花を供えたりと、ねんごろに守っている。

そんなお地蔵さんと、それを守る町人の距離がぐっと縮まるのが8月の地蔵盆である。元は地蔵祭、地蔵会とも呼ばれた祭礼で、近年は8月24日前後の土日に各町で行われている。いつもは祠や寺に安置されている地蔵が表へ出され、洗い浄められ、化粧をほどこす、あるいはよだれかけを新調するなどして、地蔵盆用の祭壇に据え置かれる。そこへ入れ替わり立ち替わり地域の大人や子供が訪れ、いつも見守ってくれているお地蔵さんに日々の感謝とこれからの平安を願う。他にも僧による読経や珠数まわし、福引やスイカ割りなどのイベントが催され、終日賑わう地域のお祭りだ。

町家などで店舗やオフィスをかまえる事業者には毎年お声がかかる地域活動でもある。たかが地蔵盆、されど地蔵盆。面倒がらずに関わることで近隣との交流が深められ、ビジネスにおいても縁をつなぐきっかけになるのでは。コロナ禍でコミュニケーションのカタチがめまぐるしく変わっていく今だからこそ、地蔵を守り、地蔵に守られるアナログな町の姿、地蔵盆を大切にしたい。

■information

〈参考文献〉
『京都 地蔵盆の歴史』村上紀夫(法藏館)
「京都をつなぐ無形文化遺産」(https://kyo-tsunagu.city.kyoto.lg.jp/jizo/

Columnist

五島 望 Nozomi Goto / ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。

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五島 望 Nozomi Goto
ライター・編集企画業

京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。