2023.03.13
レトロな道具やアンティーク家具には、その姿形の良さはもちろん、手から手へと渡ってきた趣、味わいが刻み込まれていて、そのストーリーをもデザインの一部のように思えてくる不思議な魅力があります。私はそうした調度品を“今”に取り入れているお店が好きで、取材先で見かけるとつい根掘り葉掘り尋ねてしまいます。
先日、取材したベーカリーの入り口は日本家屋で長く使われていたガラスの木戸でした。高さが足りないから戸の下部に板を足してアンティークのドアノブを取り付けたもの。決して大げさではない、ともすれば素朴な扉ですが、その柔らかな小麦色はまるでパンの焼き目のようでもあり懐かしい佇まいでもあり。シンプルなリメイクだけれども、どうしてこんなにも合うのか。店主のセンスの良さに感じ入るとともに、仕事に対する生真面目さに触れたような気がしました。
古い骨董やアンティーク品をただ並べるのではなく、その人なりの創意工夫を重ねて現代にさりげなく組み込んでいく。その調和は唯一無二であり、その店の雰囲気を醸成していく。もっと言えば新旧がモザイク状に混ざり合う京都らしさにもつながると思うのです。
安くて入手しやすいプラスチック製品は便利ですが「持続可能」や「循環型」などと言われる昨今において古いものを利活用することはある意味で“新しさ”なのかもしれません。
今回は京都で定期開催される骨董市のほか、アンティーク家具などを扱う名店をご紹介。店舗や社内のインテリアを思案中という方の参考となりますように。
京都の骨董市の代表格といえば、「弘法さん」「天神さん」の愛称で親しまれている東寺と北野天満宮の縁日です。
東寺は794年、平安遷都の折に羅城門の東に開創したのが最初で、その後、嵯峨天皇から弘法大師空海に下賜されました。同寺の縁日は、弘法大師空海の命日に因んで毎月21日に行われます。
世界遺産にも指定されている東寺のシンボルといえば、やはり高さ55mもある木造の五重塔。縁日はそのお膝元で100以上の店が軒を連ねます。
よく見かけるのはやはり骨董。陶器や古い着物が多いように思います。その一方で、豆やお茶、ドライフルーツといった食品も豊富。ちなみに私は以前、弘法さんで大きなガラス瓶と着物を買いました。ガラス瓶は蓋が割れていたので2000円ほどに値切り、着物は愛らしい銘仙柄で4000円ほど。ところが着物は外国人を含む多くのご婦人方も狙っておられる様子だったので、焦ってサイズをよく確認せず購入。帰宅して袖を通してみると長さが足りず、ちょっと泣きました。まぁ、それも骨董市のご愛嬌ということで。
学問の神として有名な北野天満宮は、947年創建と伝わる全国の天満宮・天神社の総本社。ご祭神・菅原道真公の命日に因み、毎月25日に縁日が行われています。同社も骨董や着物、漬物や植物などが多く、東寺と比べると、境内の外、側道にまで露天がはみ出ているのが特徴。アンティーク品も多いように見受けられます。
ちなみに以前、私は天神さんでアンティークのホーローボウルを4点買いました。全部で4000円ほど。ちょっと高めですが今も現役で活躍中。気に入っています。
いずれの市も値下げ交渉にはあまり応じてもらえない印象ですが、めげずにトライしてみてください。
1軒目は叡山電鉄「一乗寺」駅から徒歩約5分にある「葡萄ハウス家具工房」。こぢんまりとした2階建の店舗に椅子やテーブル、本棚、陶器類などが所狭しと並びます。同店の特徴はアンティークと言ってもいわゆるゴシック調のあしらいがほどこされたゴリゴリの家具ではなく、おそらく昭和の一般家庭で使われていたであろう懐かしい家具類が多いこと。そのせいか購入した家具はインテリアで浮くことなく家にしっくり馴染みます。比較的良心的なお値段でアフターケアにも応じてくれるのが嬉しいです。
2軒目は御所南エリア、夷川通沿いにある「井川建具店」。襖や障子、屏風、欄間などおよそ3千枚を扱う京都屈指、いや日本屈指の古建具専門店です。基本的には建て壊される京町家から出てきたものが多いですが、東北エリアの古民家から出てきた民芸調の厚い木戸などの珍しい建具もあり、見ているだけで楽しいです。今や貴重となった網代の戸も1枚1万円〜と比較的安価。サイズのお直しや調整にも応じてくれます。
ちなみに店内は建具がすし詰め状態ですが、近隣にはさらに大きな倉庫もあって、そこはもはや迷宮。入ったら出てこられないレベルなので、同店へ行く際はどんな戸が欲しいのか、サイズ等を含めて予め電話で店主に伝えておくと候補の品を用意してもらえます。
しかし不思議なもので建具を変えると部屋の雰囲気がグッと変わります。先人の知恵とでも言いましょうか。素晴らしい文化です。
東寺→WEBサイト
北野天満宮→WEBサイト
葡萄ハウス
井川建具店→WEBサイト
『京都・観光文化検定』京都商工会議所編・ 森谷尅久監修/淡交社(2016年発行)
京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。
京都精華大学卒。東京で漫画編集者を経て京都でライター、編集企画業をしています。このたびSTART UP KYOTO運営事務局さんから「京都をテーマにコラムを書いて欲しい」とのご依頼を受け、筆を取りました。テーマがテーマですので武者震いしますが、知っていると京都の見え方、過ごし方がちょっとおもしろくなるかも、というような内容をお伝えしていけたらと思っています。お仕事の参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。
お気軽にご相談ください。
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